性犯罪で保釈が認められるプロセスを解説|性犯罪弁護サイト

性犯罪で保釈が認められるプロセスを解説

性犯罪弁護 弁護士 性犯罪で保釈が認められるプロセスを解説

性犯罪で保釈が認められるプロセスを代表弁護士が解説

 強制性交等,強制わいせつ,痴漢や盗撮などの性犯罪では,他の犯罪も同様ですが,逮捕・勾留されて留置所に拘束されると最大23日間自由が奪われ,連日,警察や検察官の取調べを受けることになります。
 そして,勾留期間中に示談等できず,勾留満期日に検察官が起訴すると,被疑者としての勾留は,被告人としての勾留に切り替わり,引き続き身体拘束がなされ,それが2ヶ月ごとの更新で継続します。この状況を打開する唯一の方法が保釈です。
 こちらのコラムでは保釈の手続きや保釈可能性について,代表弁護士・中村勉が解説します。

 保釈は捜査段階では認められず,起訴後にのみ認められます。性犯罪のみならず,どの犯罪でも同じで,このことが欧米の司法制度と最も際立つ違いです。
 しかし,法律に定められているので如何ともしがたいです。保釈の勝負どころは起訴後となります。起訴後の手続きには,いくつかの節目があります。起訴から第一回公判までの段階(裁判員裁判では第一回公判前に争点完了段階という節目もあります),第一回公判から裁判審理が始まるとまずは検察官立証があり,その終了までが第2段階,そして弁護側立証が終わり,論告弁論までの第3段階,更に,判決までの第4段階,最後に判決後の保釈と,大きく分けて5段階(裁判員裁判では6段階)あるのです。
 保釈請求は何回でも請求できますので,このいずれの段階でも保釈請求することができますが,被告人としては一日でも早く保釈を獲得したいので,早期の保釈が弁護人に求められるのです。
 しかし,保釈可能性は早いと低く,段階を追うごとに高くなっていくので,早い段階でいかに保釈を獲得するが腕の見せどころです。
 ここで,保釈の手続きの実際についてお話しします。弁護人が保釈請求書を裁判官に提出し,裁判官は保釈が相当かどうかを判断しますが,弁護人は,対面あるいは電話で裁判官と面会し,保釈を認めるのが妥当である旨説得します。裁判官は検察官にも意見を求めます。ほとんどのケースで(ほぼ100%),検察官は保釈に反対します。
 それでも裁判官が保釈を許可すると,その保釈許可決定謄本が検察庁に送られ,検察官は釈放指揮書を勾留先の警察(あるいは拘置所)に送ります。警察ないし刑務官はその指揮に従い,釈放を執行しますが,係官は,房にいる被告人に「釈放だ」と告げるのです。
 このときの気持ちはそう告げられた者しかわかりません。全身を覆っていた緊張感や憂鬱が一瞬にして解かれる思いです。約20日間も拘束され,家族とも恋人ともまともに話すらできていなかったので,大きく安堵し,住み慣れた家に帰ることができるのですから。
 その後,留置に預けてある所持品を確認して全て返してもらい,家族から差し入れてもらっていた衣類や書籍なども受け取り,手提げ袋に入れて,留置エリアの施錠を開けてもらって一階のロビーに出ると,交通行政の手続きなどで市民がたくさん行き来する中を進み,警察署正面玄関から晴天の外へ歩み出すのです。家族や弁護士が迎えに来てくれていることもあります。自由の尊さを実感する瞬間です。

審理の経過と保釈可能性について

 さて,このような保釈を獲得するためのポイントとなるのはどのようなことでしょうか。上記のように,保釈とは,被告人を自由にすることです。そして,被告人が裁判を受ける前から,あるいは,受けている途中で自由にしてしまうことに反対するのは検察官です。検察官は被告人が自由になることで裁判を受けずに逃走してしまわないか,また,被告人が有罪となるのを恐れて証拠を偽造したり,破壊したり,証人を脅したりしないか,そんなことを恐れています。要するに,「逃亡のおそれ」や「罪証隠滅のおそれ」を慮って保釈に反対するのです。法もこの二つのおそれを権利保釈の除外事由にしています。法は極端なことに,捜査中はこのおそれが必ずあるとして,絶対的に,例外なく保釈を認めていません。
 なるほど,証拠破壊と言っても物証は押収済みですし,証人の供述も調書にしていることが多いです。逃亡のおそれにしても,これを予防するため担保として多額の保釈金を裁判所に納めているとも言えます。それでもなお,おそれは払拭できないとして,特に第一回公判前は保釈が認められることはほとんどありません。第一回公判前の保釈許可率は30%を大きく下回ります。ちなみに,第一審における保釈率は30.6%です(出典: 令和3年司法統計年報)。
 経験の浅い弁護士は,上記のように,物証押収済みや供述の調書化,そして保釈金納付可能を根拠に保釈請求しますが,その期待が裏切られることが多いです。
 では,保釈獲得のポイントは何か。まず,罪証隠滅や逃亡のおそれは絶対的なものではなく,審理の経過とともに可変的な,相対的なものと理解すべきです。物証押収後は押収前より「おそれ」は相対的に低くなります。供述の証拠化後の方が証拠化前より「おそれ」は低くなります。第一回公判において証拠について同意不同意を明らかにした後は,その前に比べ,「おそれ」は低くなります。このように証拠の収集状況を把握するとともに,未だ収集されていない証拠の証拠価値(要証事実との関連性がついか弱いか),そして証拠破壊のおそれの程度を勘案して保釈請求のタイミングをはかるのです。これができるのは,証拠構造に深い洞察力のある経験豊富な弁護士のみです。

性犯罪における保釈について

 痴漢や盗撮は,条例違反の比較的軽微な犯罪なので逮捕勾留されずに在宅で捜査が進むことが多いです。仮に逮捕勾留されたとしても略式罰金で終わることが多く,正式起訴されずに釈放されるので,保釈はあまり問題になりません。むしろ,以下にして逮捕勾留を回避するかが重要です。
 これに対し,強制わいせつ罪や強制性交等罪は起訴可能性がとても高いです。示談できない限り起訴されると考えてよいです。ですから,検察官は,最初から起訴するつもりでしっかりと証拠を積み上げていきます。そして,起訴がなされた後の保釈ですが,第一回公判前は保釈の可能性は,他の犯罪類型と比較して限りなく低いです。何故でしょうか。それは性犯罪というのは,一対一で敢行されるからです。唯一重要な証拠は被害者の供述だけなのです。
 もちろん他にも証拠はあるでしょうし,防犯カメラ等で行為の外形的事実は立証できるかもしれません。しかし,性犯罪は被害者の同意なくして初めて成立する犯罪ですから,同意はなかったという被害者の内心は,被害者本人しか証言できないのです。
 それでは,性犯罪にあって,保釈が不可能かというとそうではありません。最もインパクトのある弁護活動は,被害者と示談することです。示談は罪を認めたうえで締結されることがほとんどであり,被害者ももう処罰意思はないとの表明を含むものですから,そうした被害者に対する罪証隠滅行為はもはや想定できないのです。
 このように,性犯罪における示談の機能というのは,減軽を勝ち取ることのみならず,早期に保釈を獲得する意味でも働くのです。

保釈に強い弁護士にぜひ無料相談を

 まるで,逆説的ですが,審理がどんどん進み,無罪推定で始まった裁判もどんどん有罪心証が強くなるにもかかわらず,自由になる可能性が高まるのです。このことは,保釈というものが実体的な有罪・無罪にはリンクしていない,もっぱら手続き的な事象であり,審理の経過に左右される相対的なものであることを示しています。
ですから,例えば,「被告人は無実の罪で起訴されたのであり,冤罪であるからこれ以上勾留し続けるのは不当だから保釈願いたい」と言っても,保釈理由にはなりません。むしろ起訴事実を否認しているということは罪証隠滅のおそれがあると逆に保釈否定の事情とされてしまうのです。
 また,自白事案でも「介護していた身内を殺害するに及んだのは無理からぬ事情があったのであり,勾留継続は酷に過ぎ,釈放願いたい」と言っても,そういった情状事実は権利保釈の判断には無関係な事情なのです。
 繰り返しますが,このように,保釈という手続き,特に権利保釈は,実体的な有罪無罪や,犯罪の軽重,情状事実の有無及び内容とは無関係であり,もっぱら冷徹,無味乾燥,無機質な手続きの問題なのです。そこを,実感として理解していない弁護士も見受けられます。
 保釈が認められるか否かは,事案により異なり,共犯者の有無でも異なり,審理の経過によっても異なります。ぜひ一度,刑事の経験の深い,200件以上の保釈獲得実績(平成28年~令和4年8月)のある当事務所に無料相談のお電話をください。


「保釈」に関する性犯罪弁護 弁護士コラム